― 会社員として生きてきた僕が、マイクの前に立つまで ―
40歳を目前にしたある朝。
いつものようにスマホのアラームで目を覚まし、淹れたてのコーヒーの香りに包まれながら、ふと思った。
「このままでいいのかな?」
日々の業務は順調。安定した収入もある。人間関係も悪くない。
それでも、何かが欠けているような、心にぽっかりと穴が空いたような感覚があった。
その時ふと頭に浮かんだのが、子どもの頃に抱いていた「声優になりたい」という夢だった。
アニメが好きで、ラジオが好きで、声の演技に胸を打たれていたあの頃。
社会に出て、生活に追われるうちに、心の奥底に沈めてしまっていた「憧れ」が、静かに息を吹き返した。
「今さら」じゃなく「今から」始める
40歳。
世間的には「挑戦より安定を選ぶ年齢」とされるかもしれない。
でも、思った。
「やらない理由を並べる前に、まずは一歩踏み出してみよう」と。
調べてみると、社会人向けの声優スクールやボイストレーニングのクラスが意外と多いことに驚いた。
「遅咲きでも構いません。声の可能性は年齢を問いません」
そんな言葉に背中を押され、僕は初めてスタジオの扉を叩いた。
初めてのスタジオ、そして“声”と向き合う
ドアを開けた瞬間、独特の緊張感に包まれた。
マイク、ヘッドホン、吸音材に囲まれた空間。まるで別世界だった。
「今日はナレーション、マイクワーク、演技台本の3本立てでいきます」
講師の言葉に、心の中で「本気の世界に来たんだ」と感じた。
最初に読んだのは、短いライフスタイルCMのナレーション原稿。
「朝の光が差し込む部屋で、ふと思ったんです。誰のためでもない、自分の時間を生きてみたいと──」
一見シンプルな文章。しかし、読むたびに印象が変わる。
伝えたい「想い」が定まらないと、言葉がただの文字でしかなくなる。
「速すぎても、遅すぎてもダメ。言葉と呼吸と心を一致させるんです」
講師のその一言で、僕は「声を出すこと=演じること」だと初めて実感した。
声だけで演じるということ
続いて、ドラマ台本を用いた演技の実践へ。
役は「戦場で仲間に命令する軍人」。30秒ほどのセリフだ。
「やめろ。その一発で、全部が終わる。
お前が何を背負ってるか、俺は知ってる。
でもな、怒りは判断を鈍らせる。守りたかったんだろ? なら今は引け。
俺が代わりにやる。仲間っていうのは、そういうもんだ。」
声の強弱、息の使い方、間の取り方──
「どれも自分でコントロールしなければいけない」という新しい世界。
驚いたのは、緊張で「読みのスピード」が変わってしまうこと。
最初の録音は27秒。2回目は25秒。そして3回目は29秒。
気持ちが急ぐと、勝手に言葉が前のめりになってしまう。
講師からのアドバイスが印象的だった。
「本当の戦いは、“読み終えた後の無音”です」
演じ終えた直後の沈黙の時間。
ここで次の感情に切り替える。自分の中の役を一度リセットする。
その「0.5秒」のコントロールすら、プロは戦っている。
マイクは“味方”にも“敵”にもなる
レッスンの中で最も衝撃的だったのが、「マイクワーク」だった。
呼吸音、リップノイズ(唇が鳴る音)、喉のゴクリ──
すべてが「音」として録音される世界。
少しの動きが命取りになるほど、マイクは敏感だった。
「コンデンサーマイクは、味方にすると最強ですが、敵に回すと最強の敵です」
まさにその通りだった。
吸う呼吸音が入りすぎてNG。
台本を見ながら顔が下がり、声がマイクから外れてNG。
初歩的な失敗ばかりだったが、それもまた貴重な学びだった。
年齢を言い訳にしない
今回のレッスンで、同じクラスにいたのは20代の若者ばかりだった。
でも、不思議と劣等感はなかった。
むしろ、「40歳の自分が、この年齢だからこそ出せる声がある」と思えた。
経験を重ねてきたからこそ、「言葉に重みを持たせられる」。
人生で味わってきた喜びや挫折が、声に乗ると信じている。
講師の言葉に、また救われた。
「若い声は“可能性”を感じるけど、年齢を重ねた声には“深み”がある。それが最大の武器になるんです」
最後に──
まだまだ声優としての道は始まったばかり。
声の出し方も、感情の乗せ方も、何一つ満足にできていない。
だけど、確かに今、胸の中には「燃えるような情熱」がある。
FIRE(経済的自立)を目指して節約や投資に励みながら、
人生の“情熱の火”も消さないようにしたい。
「やりたいと思ったときが、始め時」
「年齢を言い訳にせず、挑戦し続ける人生を」
この言葉を胸に、僕はこれからも声を磨いていく。
もしこの記事を読んで、少しでも「何かやってみたい」と感じた方がいたら──
あなたも、ぜひ一歩踏み出してみてください。
僕と一緒に、“遅咲き”の可能性を咲かせていきましょう。
※この体験記は、個人の受講体験をもとに編集・再構成したものです。
登場するスクール名や人物名は伏せています。
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